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ワ イン物語 シャトー・ベイシュヴェルその2
今週は、先週に引き続き、「シャトー・ ベイシュヴェル」を取り上げます。
ボルドーのワインは「年代モノ」、
つまり古いワインのほうがおいしいといわれていますが、このワインは例外。
若くて安いうちでも充分においしさを楽しめるその理由を
お話したいと思います。
ボルドー ワインは長期熟成に向く場合が多い

ボルドーの街から北西に向かうN2(県道2号線)は、グランシャトー街道と 呼ばれており、その周辺には、ファン垂涎もののワインを生み出すシャトーがたくさんあると、前回お話ししました。
この街道を走ると、地平線も見えるのでは、と見紛うくらい、平らな土地にブドウ畑が限りなく広がっています。連なる丘に張り付くブルゴーニュの畑とは、趣 がまったく異なるのに、まず驚かされました。
フランス南部の、抜けるような青空がブドウ畑の緑色に反射し、まるで広い海原に出たような錯覚さえ起こしそうです。本当にボルドーは広いのです。ボルドー 地方といっても、シャトー・ベイシュヴェルのあるメドック地区以外にも、ポムロール、サン・テミリオン、グラーブなど数々の銘醸地があります。その中で も、メドック地区のワインは、どちらかというと長期熟成に向いた、つまり年数の経った(ヴィンテージが古いと表現します)もののほうがおいしいといわれる ワインが多いのです。

ちなみに、フランス語で「ヴィンテージ」とは、「作られた年」のこと。「ヴィンテージ・ワイン」というと、日本では高級ワインと誤解している向きも多いの ですが、単に「作られた年度がはっきりしているワイン」に過ぎないのです。
ボルドー地方は、ブドウ畑の中にこうしたシャトーが点在します。「シャトー」の名前どおり、小規模な「お城」のような、歴史があって豪奢な建物も少なくありません。それぞれ敷地の中に醸造所を持っています。



若くても楽しめるのは、使われるブドウ品種に由来
確かに長期熟成したメドックのワインはおいしいものが多いのですが、問題は 価格です。年数が経過することにより、価格が高騰するワインが多いのが現状です。例えば、同じワインでも2000年のワインが4000円〜 5000円で買えるのに、1990年前半のワインを買おうと思うと1万円以上になる、なんてことは稀ではありません。

今回、数あるメドックのワインの中で、シャトー・ベイシュヴェルを取り上げた理由は、ここにあります。このワインは、私が知る限り、比較的若くてもボル ドーらしいおいしさを楽しめるワインだから。若いワインでも楽しめるということは、比較的安くおいしいワインが飲めるということなのです。
それでは、なぜシャトー・ベイシュヴェルは、比較的若いうちから楽しめるのでしょうか? もちろん理由はたくさんあるはずですが、それは、ワインを作るブ ドウ品種に由来する部分が大きいと思います。
収穫前の完熟したカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロは、色はもう黒に近く、色の濃いボルドーワインのもとになります。糖度は日本で食べられる食用のブドウより高く、信じられないほど甘いのです。

ブドウ品種のブレンドで味が左右される
シャトー・ベイシュヴェルを作るブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、メ ルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドです。
ブルゴーニュの赤ワインはボージョレ地区を除いてほぼピノ・ノワールという単一品種から作られていますが、ボルドー地方で作られるワインは、複数の品種を ブレンドしてつくられています。ここで作ることを許されるブドウの品種は、赤ワインの場合5品種、白ワインの場合3品種です。赤ワインを作る場合、他の シャトーでも、シャトー・ベイシュヴェルと同様の品種を使う場合が多いのですが、シャトーごとにブドウのブレンドの微妙な割合が違ったり、作り方の個性も 出てくるので、土地による個性もさることながら作り手によってまったく個性の違うワインが出来上がります。

ボルドーで栽培が許可されている赤ワイン品種は以下の通り。一般的に表現される各品種の特徴を説明しておきましょう。

■カベルネ ソーヴィニヨン
色は濃い赤、黒に近い紫のワインをつくる。香りは、カシスやドライハーブ、土などのニュアンスを持つ。できるワインは力強いタンニンと複雑味を持ち合わせ 長期熟成に耐えられるワインとなります。

■メルロ
色は濃い赤、黒に近い紫のワインをつくる。香りはブルーベリー、きのこ、スパイス、皮などのニュアンスを持つ。できるワインはタンニンがやわらかく複雑な 味わいの中にもなめらかさ、やさしさがあります。

■カベルネ フラン
色は赤紫のワインをつくる。香りはブルーベリー、フレッシュハーブ、土などのニュアンスを持つ。タンニンは少なめで、ハーブ系の香りにとんだワインとなり ます。

■プティ・ヴェルド
色は濃い赤のワインをつくる。香りはカシスなどのニュアンスを持つ。アルコール度とタンニンが強い複雑さを持ったワインとなります。

■マルベック
色は赤いワインをつくる。香りはブルーベリーなどのニュアンスを持つ。タンニンはやわらかく繊細なワインとなります。

メルロがそのやわらかさの秘密
シャトー・ベイシュヴェルの現在のブレンド 比率は、カベルネ・ソーヴィニヨン62%、メルロ31%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド2%です。4つのブドウ品種の個性をあわせ持つ、しっか りとしたつくりの赤ワインが生まれます。
シャトー・ベイシュヴェルのワインが、他のメドック地区のワインより早く飲んでもおいしいと感じられるその理由は、メルロのブレンド比率が高い点が一翼を 担っていると考えられます。メルロ品種は、同じ強いタンニンを持つカベルネ・ソーヴィニヨンと比べて、まろやかさを感じることができるワインです。
カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高い場合、そのタンニンに由来する渋みがまろやかになるまで時間がかかるので、どうしても古いヴィンテージのほうが、お いしく感じられる場合が多いのです。

シャトー・ベイシュヴェルの場合、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロの絶妙な割合のためか、長期熟成してもおいしいワインですが、同時に比較的早い時期に も十分に楽しめるワインとなるのでしょう。長期に熟成されたものは、柔らかなタンニンと樽の溶け込んだ香りがときにはカラメルやバニラのようなニュアンス をもたらしますし、若いワインには果実の凝縮感と同時にまろやかさも楽しめるワインとなります。
マルゴーで宿泊したホテル。天蓋つきのベッド、広いお風呂、ブドウ畑が目の前のテラス付きで、部屋代は1万円くらい。メドックの村々は、それほどお金を出さなくても、このような納得感の高いホテルがたくさんあります。
14世紀まで遡れる歴史あるシャトー
ここで、シャトー・ベイシュヴェルの歴史を 紐解いてみましょう。ボルドー地方でもその歴史は古く、14世紀にまでさかのぼることが出来ます。
現在のシャトー名を名乗ることになったのは16世紀のことで、当時の所有者であったエペルノン公爵はフランスの海軍提督でもありました。
ジロンド川に面したこのシャトーを通る際に、そこを行きかう帆船はエペルノン公爵に敬意を表すために、帆を下げて通っていくのが常となっていました。「帆 を下げよ!」と言う意味のバイス・ボワル(Baisse Voile)という言葉がなまってベイシュヴェルとなったと伝えられています。現在のラベルにも名前の由来である帆を下げた帆船の絵が描かれています。

また、ここの城館はボルドーでももっとも美しい城館の一つとして知られています。1757年に所有者であったブラシエ公爵が立て直したものが現在のもの で、公爵は同時期に建設中であったヴェルサイユ宮殿にならったルイ 15世様式で城館をつくり、ルノートル様式の広大な庭園もつくりました。

時が止まり、同時に流れる場所
残念ながら、ボルドー滞在中にシャトー・ベ イシュヴェルの城館を訪ねるチャンスはありませんでした。
このベイシュヴェルのエピソードを読んで思い出すのは、ボルドーのマルゴー村に宿泊し、朝早く目が覚めたとき、夜と昼の気温差のせいか、真っ白な朝もやが 立ち込めていた景色です。ブドウ畑の向こうには、すぐジロンド川です。地面を這うように流れ込む、その白いもやの向こうに、今でも帆船が行き交うような、 そんな錯覚さえ感じられるのです。
数世紀のときを経ても、悠々と流れる川、ボルドーのブドウ畑の中に点在するシャトーは、それほどその姿を変えていないのでしょう。

とはいえ、時の流れは確実にボルドーにもやってきています。これはボルドーに限ったことではありませんが、90年代以降、技術革新のおかげもあって、「ハ ズレ年」はないと言われています。
また、シャトーの所有者も次々と変わっていきます。シャトー・ベイシュヴェルも、その後何人かの所有者の手を経て、現在ではグラン・ミレジム・ド・フラン ス社の所有になっています。実はこの会社の母体は、フランスの保険会社であるGMFと日本企業のサントリーが共同出資して作った会社で、現在の取引価格が 示しているようにその作りには、高い評価がされています。

シャトー・ベイシュヴェルと相性のいい料理と適温

ボルドーワインの特徴であるしっかりしたタンニンとスパイスのような複雑な風味を持ったワインなので、ややこってりとした肉料理には全般的に相性が良いと 思います。
今回のワインはメルロ種のブレンド比率が高く、やわらかなタンニンのまろやかさや土やきのこのニュアンスを感じることができるので、同じような特徴をもっ たクリームを使ったソースやきのこ類との相性も良いと思われます。
また、ボルドー地方ではよく料理にワインが使われます。料理名に「ボルドレーズ」とつくものは「ボルドー風」とでも訳すことができますが、料理にボルドー の赤ワインを使ったものが多く、このような料理には飲むワインにも同じような風味をみつけることができ、それが相乗効果となってよりおいしく感じることが できるのです。
飲む温度は18度ぐらいが適温です。若いヴィンテージの物でもデカンタージュし、空気を含ませることによってよりまろやかに飲むことができると思います。


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