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ワ イン物語 | シャトー・ベイシュヴェルその1 |
今週は、 初めてボルドー地方のワイン「シャトー・ベイシュヴェル」を取り上げます。 ショップに行くと、ボルドーのワインは無数に並び、 どれを選ぶか迷う方も多いでしょう。 今週は本題に入る前に、 ボルドーワインを選ぶ基礎となる「格付け」についてお話します。 |
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ボルドー
にはボルドーの格付けがある |
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フランスのワインの銘醸地として、ブルゴーニュ地方と双璧を成すのはボル
ドー地方です。 私がボルドーを訪れたのは、9月半ば。パリでは秋風が吹き、もう厚手のジャケット無にはいられない季節なのですが、ボルドーはまだまだ暖かく(というか、 暑く)、Tシャツ1枚でも汗ばむほどでした。パリから南西に向かうこと約600キロ。緯度は北海道より上ですが、大西洋岸に位置するせいで、フランスの中 でも比較的温暖なエリアです。 今週から2週にわたって、「シャトー・ベイシュヴェル」というこのボルドー地方の1本を取り上げていきたいと思います。このワインは、ボルドー地方のメ ドック地区の中にあるサン・ジュリアン村で産出される、サン・ジュリアンという村名のAOCワインです。 前回のジュヴレ・シャンベルタンの回でフランスワインの格付けについて説明し、AOCワインとは、ある指定された地域のワインであることの保障を示し、一 定の条件をクリアしたワインだけが原産地を名乗れる「品質保証」の制度であることは前にもお話しましたが(詳細は「今週のワイン物語〜ジュヴレ・シャンベ ルタン1」 へどうぞ)、ブルゴーニュ地方ではAOCワインの格付けが下位から「地方名」「地区名」「村名」「畑名」であるのに対し、ここボルドー地方では 「地方名」「地区名」「村名」となっています。つまり、ブルゴーニュにある「畑への格付け」がないのが特徴です。 |
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ボルドー地区には「シャトー」がいっぱい |
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では、具体的なボルドーワインのAOCの一部を見てみましょう。 地方名AOC ボルドー 地区名AOC メドック、グラーヴ、ソーテルヌ、ポムロール、サン・テミリオン 村名AOC サン・テステフ、ポイヤック、サン・ジュリアン、マルゴー ラベルの「Appellation ○○ Controlee」の○○の部分には、上記の地方名、地区名、村名が入っています。 ボルドーでは、ブルゴーニュのように畑の区画が格付けの対象になりませんが、その代わりに「シャトー制度」というものが存在します。皆さんも「シャトー・ マルゴー」をはじめとする、「シャトー○○」という名前のワインを聞いたことがあると思います。 ボルドーの市内は、環状の高速道路に囲まれており、その環状線から北西に出るルートを取ればメドック地区、南に向かえばグラーヴ地区やソーテルヌ地区、東 に向かえばポムロールやサン・テミリオン地区と、ワインの銘醸地の「ヘソ」のような位置にあります。 私はその日、ボルドーの市内から、北西にルートを取り、ポイヤック村を目指していました。ポイヤック村にある「シャトー・ムートン・ロートシルト」の見学 を申し込んでいたからです。 県道2号線(N2)に入った後、メドックの村々をマルゴー、サン・ジュリアンと通過し、ポイヤック村に入ります。しかし、この道すがら、道路標示を見るた びに、車を止めたい欲求を押さえるのに苦労しました。道路標示には、「シャトー・ラトゥール」、「シャトー・ランシュ・バージュ」などワインファン垂涎も ののシャトーの名前が次々と登場するのです。 |
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シャトーとは、「自社ブランド」の象徴 |
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それでは、このシャトーとは何でしょうか。 ボルドーで使われている「シャトー」という言葉は、フランス語で、「城」や「館」を意味する一般的な「シャトー」とは違う使われ方です。ブドウ園を所有し てワインを生産する生産者や、ブドウ園そのものを意味するのです。 このように「シャトー」を名乗ることができるワインは一定の条件があります。その条件とは、ブドウ園の持ち主が、所有する畑内やその付近に自分の醸造所を 持ち、自分の畑から取れたブドウを使って自ら醸造していること。その自らが醸造したワインに限って、「シャトー○○」を名乗ることができます。 つまり自己畑、自己醸造、自己瓶詰めをしたワインは、シャトー名をつけて自分のブランドとして、市場に出すことができるのです。いくら自分の畑から獲れた ブドウでも、他社(他者)に売ってしまったら、自分のブランドとすることはできません。 事実上、商標と同じような意味を持つこうして醸造された「シャトー○○」と名がつくワインは、その立地条件と造り手の醸造技術を反映したものとなり、ワイ ンの品質を知る大きな手がかりとなります。 例えば、「今日、何を飲もうかな」とショップを探すとき、ボルドーとブルゴーニュのワインでは、探すまでの考え方が違ってきます。 ●ブルゴーニュの場合 今日は、ジュヴレ・シャンベルタン(村の名前)が飲みたい ↓ 力強いマジ・シャンベルタン(畑名)にしよう ↓ おいしいといわれる「作り手」は○○(作り手の名前)だ のように考えていきます。つまり、同じ村、同じ畑のワインの中に、多くの作り手が存在するので、最後に作り手まで考慮することになるのです。一方、ボル ドーでは、 ●ボルドーの場合 今日はボルドーのサン・ジュリアン村(村の名前)が飲みたい ↓ 「シャトー○○」を飲みたい となります。あるいは、村のことなど考えず、直接「シャトー○○を飲みたい」と考える場合もあります。「シャトー○○」という名前に、ブドウの所有者、ブ ドウの作り手、ワンの醸造者がすべて集約されているので、比較的覚えやすいといえるかもしれません。 |
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1855年以来、今も残るメドック地区の格付け |
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そして、ボルドーでは地区ごとにこれらシャ
トーに対して、独自に格付けがされています。今週から紹介する「シャトー・ベイシュヴェル」はメドック地区に属していますので、メドック地区の格付けにつ
いても少し説明をしておきます。 メドック地区では、独自に61の秀逸なシャトーを1級から5級にランク付けをしています。これは1855年のパリ万博の際に、当時フランスを統治していた ナポレオン3世が、フランス文化の象徴としてボルドーワインを出品することを決定し、ボルドーの商工会議所が中心となりこの地区のワイン取引の市場価格を もとに評価したのが始まりです。 ここでの格付けはブルゴーニュのようにブドウ畑のよしあしを評価したのではなく、あくまでも作られるワインの市場価格という、消費者の嗜好や認知度、それ を裏付ける醸造技術などが評価される傾向にあったようです。 メドック地区の格付けと言いながら例外として、メドック地区より南にあるグラーヴ地区から「シャトー・オー・ブリオン」、ソーテルヌ地区から「シャトー・ ディケム」だけがそのラインナップに加えられました。地区は違っても、当時の市場評価の高さから無視できないという判断がその理由だったといいます。 |
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格付けが現在の市場価値を反映していないことも | |||
現在でも1部の変更があったものの、この
1855年の格付けは、
150年経った今でも変わることなく存在しています。確かに数多いシャトーワインの中から質の高いワインを選ぼうとするとき、格付けのものであるかどう
か、それが何級に位置づけているかを見ることで、ある程度の評価の指針になり得るというメリットはあります。 しかし、同じボルドー地方に属し、すばらしいワインが醸造されているサン・テミリオンやポムロールのワインが評価の対象にならなかったこと、150年の時 を経て、今では等級と市場価値、品質が実態を反映していない場合もあることを踏まえた上で、参考にしなくてはならないと思います。例えば、格付けは2級、 3級のワインでも、実際の販売価格は5級よりも安いワインもあったりします。 メドック地区産のワインのラベルに「GRANDS CRUS CLASSES」「CRU CLASSE EN 1855」などとあればこの格付けがされているワインだと見分けることができます(ときに、例外もありま す)。 前置きが長くなりましたが、このシャトー・ベイシュヴェルというワインは、ボルドー地方のメドック地区にある、サン・ジュリアン村から作られるワインで、 メドック地区の格付けでは第4級に格付けされたワインです。現在の市場価格では2級並の価格で取引されるとても評価の高いワインです。 今週はボルドーの格付けの勉強で終わってしまいましたが、来週は、カラメルやヴァニラの香りもするこのすばらしいワインについて、話を進めたいと思いま す。 |
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