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ワ イン物語 シャブリその3
このコラムでは、ワインを毎週1本取り 上げ、
その味わいや楽しみ方、ちょっとした知識などを紹介していきます。
白の辛口ワイン「シャブリ」の最終回。
シャブリの村にあるレストラン付きホテルで味わったシャブリは
なぜすばらしかったのか?
シャブリをおいしく飲むための3番目の法則を紹介します。
おいしい シャブリを飲むために村で評判のレストランへ

シャブリ、3回目の今回は、おいしいシャブリと出会う3番目の法則について 書きたいと思います。
パリの「シャブリ プルミエ・クリュ」の後、本当においしいシャブリに出会ったのは、ブルゴーニュ地方の中心地、ディジョンのレストランでした。これは 2002年7月のこと。2001年6月から2002年7月の間に飲んだシャブリは、確実に10本を越えているはずです。その間、おいしいシャブリに出会え なくても、「絶対にあの味のシャブリに出会えるはず」と飲み続けるのですから、ワインは本当に魔物のようです。
そして2002年10月、シャブリ村を訪れた目的は、もちろん、3本目のすばらしいシャブリに出会うためです。

フランスで数々のレストランを巡るうち身に付けた知恵は、おいしい料理を出すレストランで飲んだワインは、どんな値段のワインを飲んでも例外なくおいしい ということです。これは、料理がすばらしいためにワインもおいしく感じるという理由もあると思いますが、料理にそれだけ気を使うレストランでは、ワインの 仕入れにも気を使い、そこで提供される料理とワインの相性についても考えられているからです。
このとき、おいしいシャブリに出会うために私たちが取った手段も、シャブリ村の中で評判のいいレストランで食べるというものでした。

フランスには、「オーベルジュ(Auberge)」と呼ばれるレストラン付きの小さなホテルがたくさんあります。小さなホテルに併設されたレストランとい うと、正直言って「マズそう」なイメージがありますが、その土地の名産を使った家庭的な料理を楽しめたり、中にはミシュランガイドの星付きのレストランも あったりするのです。おいしいレストランで食事を取り、そのままホテルの部屋になだれ込む、そんな極上の休日が過ごせます。
 シャブリで私たちが滞在したのも、こうしたホテルの一つ「Hostellerie des Clos」でした。併設されたレストランは、ミシュラン(2002年度版)の一つ星を獲得しており、期待は高まります。
シャブリで泊まったオーベルジュ。一ツ星レストラン付きとはいえ、気取ったところのない暖かいスタッフばかりのホテルでした。

「ドゥミ・ペンション」形式は安い。でも……
レストラン付きのホテルに滞在する場合、料金形態は主に二つ。ホテルの滞在 費とレストランの料金を別途支払う方式。この場合、レストランを利用するかどうかはもちろん自由ですし、また、レストランでも自由にメニューを選択できま す。
もう一つが、「ドゥミ・ペンション(demi-pensioin)」という方式。ホテルの滞在費とレストランでの食事の料金が、込みで設定され、夕食と昼 食が付いています(「ドゥミ」とは、フランス語で半分の意味です)。料金的にはとても得ですが、レストランでのメニューは、フィクスされていることが多い というデメリットもあるのです。

私たちは予約の段階で、ドゥミ・ペンションを選択していました。どちらかというと、おいしいシャブリにお金をかけたいという心積もりがあったからです。し かし、夕食前にフロントの女性に呼び止められ、
「ドゥミ・ペンションにしますか?」
と、再度尋ねられ、心が揺らぎます。そこで、
「メニューをお聞きしてから決めてもいいですか?」
とつたないフランス語でお願いしてみると、相手は「もちろん!」と、私の言い分に合点がいったように満面の笑みを浮かべました。私が「メニューをお聞きし てから」と言ったのも、相手もそれを聞いただけで合点がいったのにも、理由があるのです。
ホテルの部屋。ダブルルームで、広めのバスルームでとても快適。昼間、ハーフボトルのシャブリをレニャールという作り手で購入し、冷蔵 庫で冷やしておいて夕食後に飲みました。宿泊費、レストランでの夕食(ワインも含む)、朝食で280ユーロ(2人分)。当時のレートで3万5000円くら いでした。
「シャブリとの相性は抜群と思われます!」
19時30分。ホテルの部屋から階下のレストランに、少しだけドレスアップ をして降りて行きました。いくらホテルの中でも、相手は一ツ星レストランですから、安易にジーンズなどはいていったら、雰囲気はぶち壊しというものです。
レストランの入り口まで行くと、案の定、タキシード姿の背筋がピンと伸びた給仕長(メートルドテルと言います)が待っており、体全体が埋もれてしまいそう な豪華なソファのあるバースペースにまず、案内されました。周囲を見ると、フリルが五重も六重もあるこれもまた豪奢なカーテン。ジーンズをはいてこなくて よかった、と内心ホッと胸をなでおろします。

そして、かの給仕長が
「ドゥミ・ペンションにされるかどうか、迷っているとお聞きしています。今日のメニューは、オードブルがサーモン・フュメ、メインはタラのブールブラン ソースです」
と説明してくれました。
「私たちはシャブリ村で、ぜひおいしいシャブリを飲みたいと思っています。料理との相性はいかがでしょうか?」
私がすかさずそう質問すると、給仕長は「我が意を得たり」といわんばかりに、
「どの料理もシャブリに合うと自信を持っておすすめできます。特に、メインはシャブリを使ったソースですから、シャブリとの相性は抜群と思われます」
と、こちらのフランス語のレベルを察し、ゆっくりと説明してくれました。もちろんそれを聞けば問題はなく、ドゥミ・ペンション形式のそのメニューを取るこ とに迷いはありませんでした。

おいしいシャブリが楽しみたい私にとって、「どのシャブリを飲むか」も重要ですが、「シャブリと合わせる料理は何か」もとても重要なこと。メニューは魚介 類が中心でメインはシャブリを使ったソースで味付けしてあれば、その味わいを十分に引き出すことができると思ったのです。ですからこの日、ドゥミ・ペン ションを選択した場合のメニューのメインが牛肉や羊肉に重たいソースをかけた料理だったとしたら、私は選ばなかったと思います。「メニューを見てから決め たい」と言った私に対し、フロントの女性も給仕長も嫌な顔をしなかったのは、フランス人にとって、ワインと食事を合わせるということが当たり前のことだか らなのです。

さて、もちろん、シャブリも入念に選びました。ソファに全身をうずめ、じっくりとワインリストを吟味します。生産地でワインを飲むのですから、忘れられな い体験にしたいと力が入ります。
そして、リストの中でひときわ光って見えたのが「シャブリ ムートンヌ」。これは、先にお話した、公式にはグラン・クリュには名を連ねていませんが、事実 上のグラン・クリュとして認められているワインです。このワインを作っているのは「ロン-ドパキ」という作り手で、シャブリの優秀な作り手の1つに数えら れています。

料理との相性で、ワインは違う表情を見せる
この日のメニューを参考までに書いておきましょう。
◇突き出し 牡蠣のムース
◇オードブル サーモン・フュメ ライム添え
◇メイン タラのグリル ブールブランソース
◇お好みでチーズ(栗や乾燥イチジクなどが添えられていました)
◇デザート イチジクのパイ包み焼きバニラアイス添え

シャブリ ムートンヌは、単独でもすばらしいワインでした。かつて、パリのレストランで味わった、あの感動的な体験がよみがえります。
さらに、一緒に食べた牡蠣のムース、サーモン・フュメ、タラのグリル、チーズとそれぞれ味を高めあい、違った表情を見せてくれます。
よく、生牡蠣にシャブリと言いますが、ワインは生牡蠣のヨードから来る生臭さに負けてしまう可能性があります。
ちなみに「生牡蠣にシャブリ」とは、シャブリ地区の地質が、牡蠣殻が堆積した石灰質であり、そこで育つブドウで作るから合うのだ、という説もあったりしま すが、実際にはまだ冷蔵庫もなく食品の保存に不安があった時代、シャブリの酸味が生牡蠣に対して殺菌作用を発揮したからというのが定説のようです。
ここで私たちが食べた牡蠣はバターの風味がよく合うクリーム仕立てでしたし、サーモンのいぶした風味も、いぶした樽の香りのするシャブリとの相性が絶妙で した。また、飲むワインと料理の風味付けに使うワインを使うといいというセオリー通り、シャブリを使ったブールブランソースとシャブリを一緒に口にする と、口いっぱいに果実とバターの甘い香りが広がります。

ワインそのものはもちろんすばらしい飲み物ですが、やはり、それのみでは楽しさを味わえません。それは、これまでお話してきた「シャブリ」という一本のワ インの探求によって得た答えなのです。
おいしいワインを飲むためには、
まず、日当たり、気温、地質を見極め、それぞれの畑に適した味わいのワイン、質の高いワインを目指した先人の智恵が必要です。それは、フランス人が今も厳 しい基準によって守ろうとしています。
第二に、そこで獲れたブドウのポテンシャルを最大に引き出そうとする作り手の努力が欠かせません。またお話しする機会があると思いますが、有機栽培など新 しい試みも次々となされています。
そして、最後に食卓に上ったとき、おいしい料理とともに饗されてこそ、そのワインの味がより高まるのだと思います。
この日、飲んだムートンヌ。この作り手の「ロン・ドパキ」はシャブリのグラン・クリュ、プルミエ・クリュの畑を多く持っており、優秀な作り手として名高いです。日本で買うと、2000年くらいの新しい年代のもので1万円程度のようです。
シャブリをおいしく飲む時期や温度について

きりっとした酸味と柑橘系やフルーツの香りが特徴のシャブリやプティ・シャブリのクラスのものは、比較的早めの段階で飲むことをお勧めします。また、飲む ときの温度は8度から10度ぐらいに低めの温度で飲むことによってよりフレッシュさを味わうことができるでしょう。
プルミエ・クリュやグラン・クリュのシャブリは、より果実味が豊かに作られていて、樽で醸造や熟成しているものも多いので、長期の熟成に耐えられるしっか りとしたワインです。早めの時期からも十分楽しむことができますが、10年ぐらい経ったものなどは酸味がまろやかになり、豊富なミネラルとのバランスを楽 しむことができます。温度は少し高めで10度から13度くらいがよいでしょう。

シャブリに合う料理

酸味や果実味が特徴のシャブリには、やはり魚介類の食材との相性は抜群です。調理方法ではパセリやバジルなどのフレッシュハーブで風味付けしたものやレモ ンやライムなど柑橘系のソースなどにはお互いの特徴が相乗効果となりすばらしい体験をもたらしてくれます。
プルミエ・クリュやグラン・クリュクラスになると、しっかりとバターを使ったソースの料理にもよく合います。時には肉料理にもすばらしい相性を見せてくれ ます。

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