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ワ イン物語 シャブリその2
このコラムでは、ワインを毎週1本取り 上げ、その味わいや楽しみ方、
ちょっとした知識などを紹介していきます。
白の辛口ワイン「シャブリ」の第2回目。
格付けの高い畑ではなぜおいしいワインができるのか、
シャブリ村を訪れ実感したお話です。
また、シャブリの味を決定付ける2つめの法則にも触れます。
地質と冷 涼な気候が独特の風味のワインを生む

第1回に引き続き、「シャブリ」のお話です。
そもそも「シャブリ」という生産地は、どのあたりにあるのでしょうか?
シャブリ村はフランスのブルゴーニュ地方の最北、パリから南東に車で1時間〜1時間半のところにある小さな村です。市街は端から端まで歩いても、20分は かかるまいというくらい。その小さな村の中で、法律で定められたブドウの種類、作り方で醸造されたワインが「シャブリ」なのです。

シャブリのもととなるブドウは、キンメリジャンという石灰質で貝の化石などが混じりあう土壌で育てられています。この土地では栽培されているのは「シャル ドネ種」という白ブドウ品種です。シャルドネ種で作られるワインは、ブドウ自体の個性があまりないために作られる風土や作り方によっていろいろな印象を持 つ品種です。ここ「シャブリ」ではよく、ミネラルのような独特のニュアンスがあると言われます。このほかにはない風味は、この地質に由来するとよく言われ るのです。
また、気候はブルゴーニュの中でももっとも冷涼な気候なため、果実味の中にも適度な酸味あるワインとなります。

パリでのすばらしいシャブリ体験にはまった私は、2002年10月の初め、シャブリ村を訪れました。パリをスタートし、ロワール、ボルドー、南西地方、プ ロヴァンス、ブルゴーニュとワインの産地を巡る約1カ月に及ぶ旅の最終目的地でした。

ブルゴーニュ地方、ワインの銘醸地として名高いコートドール地区から高速6号線を約1時間、牧草と穀倉地帯を車で走り続けたところに、シャブリ村はありま す。ブルゴーニュ以南のフランスの景色には、必ずと言っていいほどブドウ畑が連なる丘に張り付いています。でも、シャブリ地区の周辺に、他のブドウ畑は見 当たりません。いわゆる「地続き」ではなく、景色を見ただけで、他の生産地とは違った味わいがあることに納得してしまいます。
高速6号線から県道62号線に入ると、今度はなだらかな山道が続きます。私のほかに車が一台も通っていない、「快適な中央高速道」といった趣でしょうか。 その山道を抜けると、シャブリ村が突然その姿を現します。 
シャブリ村の畑。冷涼な地方というだけあって、訪れたのは10月ですが厚手のニットに皮のジャケットが必 要。



洪水のように光が降り注ぐグラン・クリュの畑
シャブリ村はよく「シャブリの市街地を中心としてブドウ畑がすり鉢上に 360度びっしりと広がっている」と言われます。果たして実際に訪れてみると、なるほど町がすり鉢の底に位置し、すり鉢の傾斜部分をブドウ畑が覆っていま す。10月の初めは、すでに収穫を終えた時期。紅葉が始まったばかりで、一面の緑色の中に、ときおり金色の葉が光を放っていました。
 ホテルに車を置き、真っ先に「グラン・クリュ」の畑を見に行こうと町に出ました。さっきも書きましたが、町は本当に小さくて、町の中はほとんどワインの 作り手が出すお店や醸造所ばかりです。
「なんか、お醤油の匂いがしない?」
 と歩きながら、旅に同行していた妻が言います。なるほど、町に充満するのは、醤油の匂い。ワイン作りが既に始まっており、同じ発酵食品だけあって、発酵 のときに出る酵母の匂いはとても似ているようです。

町の中心から歩くことたった10分。「すり鉢」の傾斜のもっとも底に近い部分に、シャブリのグラン・クリュ畑はあります。グラン・クリュの畑は、もっとも いいブドウを産出する特級畑ということですから、地質、温度、日当たりがどれもブドウ作りに適していなければなりません。シャブリの場合、グラン・クリュ の畑は「すり鉢」の中でももっとも日当たりがよく、シャブリ独特の味わいを出すと言われる石灰質が多い地質の、南西向きにある傾斜地に集中しています。
面白いのが、畑の高度です。他の生産地では、丘の高い位置のほうが日当たりがいいので、グラン・クリュの畑は比較的高い位置にあります。しかし、シャブリ は他の生産地より北にあるため、あまり高度が高い畑は気温が低くなる可能性があり、霜の被害にあったり、ブドウの生育のために必要な気温にならなかったり といった理由で、高度の低い部分にグラン・クリュの畑があるのです。

グラン・クリュの畑は、以下の7つ。

ブランショ(Blanchot)、ブーグロ(Bougros)、レ・クロ(Les Clos )、グルヌイユ(Grenouilles)、レ・プリューズ(Les Preuses)、ヴァルミール(Valmur)、ヴォーデジール(Vaudesir)です。

それほど多くないので、名前を覚えておきましょう。また、ヴォーデジール(Vaudesir)にとレ・プリューズ(Les Pureses)にまたがるラ・ムートンヌ(La Moutonne)と呼ばれる公式上は特級畑ではないものの、事実上、特級とされる畑も存在します。

畑には、作業のための細い小道があります。せっかくシャブリ村まで来たのだから、シャブリを一望できるところまで傾斜を登ってみようということになりまし た。シャブリの味を生むのは石灰質というだけあって、白っぽい砂利、小石が無数にあり、登るにはあまりよくない環境です。
傾斜は30度くらいの急勾配で、それでもなんとか傾斜の中腹にたどり着くと、シャブリの市街地を中心とした「すり鉢」が一望できました。手元のガイドブッ クと照らし合わせると、丘の上部や、グラン・クリュほどではないけれども日当たりのいい場所にプルミエ・クリュの畑があることがわかります。こうした区画 割をした先人の智恵が、私たちがおいしいワインに出会える手助けをしてくれているのだと、実感することができるのです。
「キンメリジャン」と言われる石灰質。白っぽくて、小石もゴロゴロ。やせている土地のほうが、ブドウはよ く育つのだそうです。
シャブリの町の中は、花でいっぱいでした。ワインの銘醸地は、比較的豊かな土地が多いと言います。このほ とんどの建物が、ワインショップか醸造所。
グラン・クリュでもおいしくないのはなぜ?
とはいえ、グラン・クリュ、プルミエ・クリュのワインを飲めば、必ずおいし いのかというと、そうではないのが難しいところです。

話は前後しますが、私が浅はかだったのは、くだんのパリでの「シャブリ体験」後、「おいしいシャブリ探し」の方法でした。あの素晴らしさを忘れられず、あ の味をもう一度体験したいと思い、ワインショップでシャブリ、シャブリと探し回ったのです。「プルミエ・クリュ」なら何でもおいしい、さらにそれより格が 高い「グラン・クリュ」ならもっとおいしいはず、と思い込んで探し続けました。
でも、残念ながら、東京で何度シャブリの「プルミエ・クリュ」「グラン・クリュ」を買っても、パリでのレストランで飲んだシャブリの感動はありませんでし た。

でも、誤解しないでください。日本にはおいしいシャブリがないと言っているわけではありません。確かにワインとはとてもデリケートな飲み物なので、フラン スから輸入する際に乱暴に運ばれたり、気温差の激しい場所で保存されたらひとたまりもありません。でも、実際には日本でも数多くの信頼に足る商社があり、 状態のいいワインの輸入に日々努力しています。ですから、日本でもフランスで飲むのと同等のいい状態のワインを飲める可能性は十分にあります。
それでは、なぜ私たちはおいしいシャブリに出会えなかったのでしょうか?
それは、「作り手」を意識したかどうか問題なのです。
グラン・クリュの「レ・クロ」の畑。この畑の向こうに、まだまだ丘の斜面が上っていくのが分かります。グ ラン・クリュの畑にはそれを示す看板が立っています。
同じプルミエ・クリュでも作り手によって味が変わる
ブルゴーニュでは、歴史的背景によってグラン・クリュやプルミエ・クリュと いった限定された区画の畑は何人もの所有者が存在します。その中にはドメーヌと呼ばれる自社畑のワインを醸造まで一手に行う生産者もいれば、ネゴシアンと 呼ばれるいろいろな生産者のブドウを買い付けて醸造を行ったりするワイン商がいます。たとえば左の2つの図のワインは、同じプルミエ・クリュの畑のラベル です。畑は残念ながら違いますが、それはたいした問題ではなく、この見た目の違いは、作り手の違いに起因します。ちなみにこの図の上は「ルモワスネ・ペー ル・エ・フィス(REMOISSENET PERE&FILS)」、下は「ランブラン・エ・フィス(LAMBLAN&FILS)」というのが、作り手の名 前となります。
このワインは、ラベルの見た目だけではなく、味も風味も異なります。同じ畑から作られたワインでも、持ち主による栽培方法や醸造の仕方など、さまざまな条 件の違いがあるために、まったく個性の違うワインができるのです。ちなみに、私が飲んだ感想では、ルモワスネが作ったワインのほうが、圧倒的に好みでし た。

ですから畑の格付けは、ワインの品質を知る目安とはなりますが、どこのドメーヌのものか、どのネゴシアンが作ったものなのか知ることもワインの品質を知る 上で重要となるのです。
さらにワインの味は、個人の志向によっておいしい、マズいが決まる向きもあります。どの作り手によるワインによって、まったく違う味わいになるので、自分 の好みの作り手を探すこともとても大事なのです。

パリで飲んだころ、作り手など意識したことがなかったので今では知る由もありませんが、第1回目で出てきた「シャブリ プルミエ・クリュ」は、おいしいワ インを安く楽しんでもらいたいと店主がこだわって選んだ素晴らしい作り手によるワインだったに違いありません。
おいしいシャブリに出会う2番目の法則は、好みの作り手を探すことにあるのです。
とはいえ、最初はそれほど難しく考えず、一度おいしいと思ったラベルは取っておく、そして、次に同じような味わいのものを飲みたいときには、同じ「絵」の ラベルを探す、というのが現実的かもしれません。詳細は、「初歩講座2〜好みのおいしいワインを買う」 をご参考にしてください。
「すり鉢」の上から見下ろしたシャブリの町。傾斜の下にシャブリの町。反対側の斜面にはプルミエ・クリュ の畑も多い。
お勧めのドメーヌ、ネゴシアン

シャブリを飲んで、おいしいと思った経験のある作り手を挙げましたので、参考にしてください。

■Domaine William Fevre ドメーヌ ウイリアム フェーヴル
■Domaine Long-Depaquit ドメーヌ ロン−ドパキ
■J.Moreau et Fils J・モロー エ フィス
■A Regnard et Fils A レニャール エ フィス
■Maison Louis Latour メゾン ルイ ラトゥール
■Domaine Laroche ドメーヌ ラロッシュ

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