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ワ イン物語 シャンパーニュその1
このコラムは、久しぶりの更新です!
そういえばシャンパーニュを一度も取り上げたことがなかったと気付き、
かつて訪れたランスの街に思いを馳せながら、
3回にわたってシャンパーニュのあれこれをご紹介します。
「発泡性 ワイン=シャンパーニュ」ではない

日本では、「シャンパン」と呼ばれることの多い発泡性のお酒。正しくは 「シャンパーニュ」です。また、発泡性の白ワインをすべて「シャンパン」だと勘違いされている場合もありますが、これも間違い。発泡性の白ワインを総称し て「ヴァン・ムスー(英語ではスパークリングワイン)」といい、その中でも、フランスのシャンパーニュ地方で作られ、AOC法(詳細は「今週のワイン物 語〜ジュヴレ・シャンベルタン1」 へどうぞ)に準拠し、品種や醸造法などの厳しい基準をクリアしたものだけが、「シャンパーニュ」と名乗ることができま す。

今回のワイン物語では、かつて訪れた旅行記も交えつつ、「シャンパーニュ」をご紹介しようと思います。
ランスの街のシンボル、ランス大聖堂。この聖堂の建設のためにも膨大な石を地下から切り出しており、「地 下カーブづくり」に一役買っているはずです。



シャンパーニュが豊かな富をもたらす
シャンパーニュ地方はパリの東から北東のエリアに広がります。私が訪れたの はその中心都市であるランス。在来線の急行しかなかった私が訪れた当時でも、パリ・東駅から1時間35分という近さでしたが、2007年6月に TGV東線が開通し、現在ではたった45分で到着してしまいます。パリから訪れるワインの生産地では、最も近く、便利なエリアといえるでしょう。

ともあれ、TGVが開通していなかったので、パリ・東駅から急行に乗って東に向かいました。しばらくは郊外の住宅地が続き、その後現れるのは小麦畑。そし て、1時間ほど経過したころ、なだらかな丘陵地帯にブドウの木々を見ることができます。温暖化が進むこれからはどうなるか分かりませんが、現在のところ、 シャンパーニュ地方はフランスのワイン生産地の北限。このような寒冷な土地に豊かにブドウが実るのは、土地が東南向きの傾斜地だからと聞いてはいました が、たっぷりと光を浴びる木々を見て、思わず納得しました。

そして、12時35分にはランスの駅に到着。駅の外に出て、少し歩いて空気を吸っただけで私はこの街が気に入りました。シャンパーニュのもたらす富から、 この地方の人々の所得はフランスの中でも有数の高さだと言います。所得が高ければいいということではないのですが、街全体から余裕が感じられ、外国人であ る私が肩の力を抜いて歩けるような気がしたのです。
マム社のカーブ見学の入り口付近。予約なしで見学可能なメゾンの一つでした。
数百キロに及ぶ一定の低温・湿度の地下カーブ
さて、この旅の目的はシャンパーニュのメゾンを訪れること。ちなみに、ワイ ンの作り手の呼び名はフランスの中でもそれぞれ。ブルゴーニュ地方ではドメーヌ、ボルドー地方ではシャトー、そしてシャンパーニュ地方ではメゾンと呼ぶの が一般的です。シャンパーニュのメゾンのいくつかは、一般公開をしており、有料ですが試飲も可能です。私はランスの中心から徒歩圏内で、予約なしで訪問で きるマム社、パイパー・エドシック社の2社を訪問しました。

まず訪れたのはマム社。市内の北部にありますが、ランス右岸駅からも徒歩圏内です。マム社のシャンパーニュは「コルドン・ルージュ」と呼ばれます。「コル ドン・ルージュ」とは「赤いリボン」。その名の通り、白地に赤いリボンが目印で、1873年のリリース以来、多くの人に愛されてきました。
マム社の門から「VISITE DES CAVE」のサインに沿って進み、見学ツアーの受け付けへ。カーブ見学+試飲2グラスで12ユーロ、3グラスだと 16ユーロのコース、また、英語とフランス語のいずれかをそれぞれ選択できました(現在は変わっているかもしれません)。私は英語よりも少しは理解しやす いフランス語(ワイン用語を知っていたので……)、3グラス付きを選択、約10人に1人のガイドさんが付き、見学はスタートしました。

ツアーでは、地下のカーブに降りていきます。カーブに入った瞬間、そのカビの匂いとひんやりとした空気にまずは驚かされます。私が訪れたのは6月。涼しい シャンパーニュ地方といえども、外は昼間歩けば汗ばむくらいの気温です。それが年間を通じ、約12度に保たれているといいます。ガイドさんに促され、その 壁に触れると水分をたっぷり含み、指が湿るほど。

そして、実はこのカーブは、想像を絶する巨大さを誇ります。マム社のカーブだけで数キロ、ランスの街の地下には数百キロにもわたる地下脈が張り巡らされて いるとか。もともとは街づくりにあたり、大量の石を切り出したところをもとに作られているといいます。そして、一定の低温・湿度に保たれた巨大なカーブこ そ、シャンパーニュをシャンパーニュたらしめる所以といえるのです。
シャンパーニュの地下カーブの中には、膨大な量のワインやシャンパーニュがストックされています。本当に 寒くて、ガイドさんはウールのコートを着ているくらいでした。
ノンヴィンテージ・シャンパーニュのラベル。どこにもヴィンテージは入っていません。
ワインなのに、ヴィンテージがない?
2つのラベルを見比べてみてください。上の ラベルには、どこを探してもヴィンテージ(ブドウを収穫した年)が書いてありません。AOCワインは基本的にヴィンテージを記すことが義務付けられていま すが、シャンパーニュ地方のみ、唯一、ヴィンテージを表示しない「ノンヴィンテージ(NV)」が認められています。
ヴィンテージを表示しない、つまり、「ヴィンテージがない」。この意味は、シャンパーニュ独特の醸造方法から知ることができます。

まずはブドウを収穫し、圧搾した果汁を使用して、一次発酵させます。
そして、その次に行われるアッサンブラージュ(Assamblage)と呼ばれる調合のプロセスが、シャンパーニュの醸造方法の1番目の大きな特徴です。 一次発酵で得たワインに、異なる品種や畑、収穫年度の違うワインを30〜50種類調合し、ワインの味を決めていきます。

前でも述べたように、ワインはその年に収穫したブドウだけで作られますから、同じブドウ品種、同じ土地、同じ作り手のワインでも、その年のブドウの出来に よって、ワインの味に違いが生じます。しかし、シャンパーニュは保存しておいた過去のワインをブレンドすることで、毎年リリースされても、基本的には同じ 味を保っているというわけです。つまり、「ヴィンテージの特性」ではなく、「各メゾンのスタイルによる特性」を追求できるのが、ノンヴィンテージ・シャン パーニュなのです。

そんな背景があって、シャンパーニュの各メゾンでは、過去に造ったワインをストックしておく必要があります。そのストックの場所が、地下のカーブです。毎 年毎年造られるワインは膨大ですから、カーブは巨大でなければいけませんし、また、一定の低温・湿度がワインの長期保存による劣化を防いでくれるのです。
こちらは「ミレジメ」。このシャンパーニュのブドウの収穫年は1990年だったことがわかります。
収穫年の個性が反映される「ミレジメ」
さて、一方、下のラベルには「1990年」 とヴィンテージが表示されています。これは「ミレジメ」あるいは「ヴィンテージ・シャンパーニュ」といわれ、各シャンパーニュ・メゾンの判断により、良年 と判断された年のみに作られ、ラベルにヴィンテージが表示されます。ミレジメと呼ぶには、その年に収穫したブドウから造られたワインを、90%は含まなけ ればなりません。ノンヴィンテージと異なり、作り手の個性だけでなく、その年の個性が色濃く反映されることになります。良年のヴィンテージだけリリースさ れるシャンパーニュですから、ノンヴィンテージよりも価格帯も高いのが一般的です。

ノンヴィンテージ、ミレジメともに熟成期間も一般のワインより長いのも、シャンパーニュの特徴。アッサンブラージュ(調合)の後、ティラージュ (Tirage)と呼ばれる瓶詰め、加糖が行われます。一次発酵によって糖分がなくなり発酵しなくなった調合ワインを、発泡させるために糖を加えます。さ らに、炭酸が逃げないように王冠で栓をします。このティラージュの後、ノンヴィンテージでは最低でも15カ月、ミレジメでは3年後の熟成期間が義務付けら れています。

先に説明したブレンド用のストックの必要性に加え、熟成期間の長さもより大きなカーブを要求します。そうした理由から、シャンパーニュづくりはより大きな 資金力が必要となり、例えばモエ・エ・シャンドンがルイ・ヴィトングループというように、世界企業がシャンパーニュのメゾンを所有していることが多いので す。 
下のほうに小さく「N.M.」とあるのが見えます。これは「ネゴシアン・マニピュラン」の印。「レコルタ ン・マニピュラン」の場合は、「R.M.」と表示されています。シャンパーニュを飲むときは、注意して見ると面白いですよ。
グラン・メゾンだけではない多岐にわたる業態
ここで、シャンパーニュのメゾンの業態を説明しておきましょう。

●MN Negociant-Manipulant ネゴシアン・マニピュラン
大規模な生産者、会社が多く、自社畑のほかに他の生産者からブドウを買ってシャンパーニュの製造を行っているメーカー。モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・ク リコ、さきほど紹介したマムなどグラン・メゾンと呼ばれる造り手はここに属します。
●CM Cooperative-de-Manipulan コーペラティヴ・ド・マニピュラン
生産者共同組合によって生産されたもの。
●RM Recoltant-Manipulan レコルタン・マニピュラン
自家畑によって、生産から醸造、熟成まで一手に行う醸造メーカーで小規模な生産者が多い。
●MA Marque d’Acheteur マルク・ダシュトゥール
第二銘柄のシャンパーニュを言う。メーカーが売り出しているシャンパーニュは第一銘柄のもので、これらが販売会社や商社などの依頼によってその会社の商標 などで販売される銘柄。
●RC Recoltant Cooperateur レコルタン・コーペラトゥール
栽培家が加盟する協同組合の製造
●SR Societe de Recoltant ソシエテ・ド・レコルタン
同族の栽培家によって構成される会社が製造

必ず覚えておいたほうがいいのは、既に述べたグラン・メゾンに代表されるネゴシアン−マニピュランと、自家畑によって、生産から醸造、熟成まで一手に行う 醸造メーカーで小規模な生産者が多いレコルタン・マニピュランです。レコルタン・マニピュランは規模が小さいだけに膨大なストックが必要なノンヴィンテー ジを造らず、ミレジメだけを造っている場合があります。ブドウ作りから醸造まで、すべて自社で賄うことで、より特徴が強く、質の高いシャンパーニュを作る 生産者もあり、近年日本でも注目されるようになりました。

たまたま今週、ジャック・セロスというレコルタン・マニピュランのノンヴィンテージを飲みました。この造り手はシャンパーニュ地方では数少ないビオディナ ミ(有機栽培を基にした体系的な栽培方法)を実践しています。レコルタン・マニピュランらしく、ノンヴィンテージでも贅沢に造られた、他にない味わいの追 及を感じました。それだけに、ノンヴィンテージでも1万円程度の高価格帯で販売されています。

もちろん、グラン・メゾンのノンヴィンテージがそれに引けを取るかというと、そうではありません。価格はさまざまですが、例えばモエ・エ・シャンドンや ヴーヴ・クリコなどは約4000円程度で購入可能です。大量生産ながらも高いクォリティのシャンパーニュをこの価格で販売できるのは、並大抵の努力ではな いと思います。

今回はここまで。次回、製造の続きを説明しながら、シャンパーニュの甘辛の種類、使用品種などについても併せてお話しします。
代表的なレコルタン・マニピュランの一つ、ジャック・セロス。ノンヴィンテージでも1万円程度。とてもお いしいのですが、生産量が少なく、手に入りにくいのが難点です……。

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